研究内容の紹介記事、動画はこちら
- 研究室紹介 (YouTube、Meet KU Researchers)、2024年6月25日
- ”Back Cover” in New J. Chem., 42 (10), 8280 (2018)、2018年5月
- ”Cover Profile” in ChemPhysChem, 17 (11), 1543 (2016)、2016年6月
- 滋賀医大ニュース、2008年9月、”医学への応用も視野に入れたナノテクノロジー研究の展開”
- 日経産業新聞、2007年6月21日、朝刊”21世紀の気鋭、がんの早期発見へ応用”
- 京都新聞、2004年11月14日、特集”シーズの扉・産学公の研究室”第1回に登場
研究のコンセプト
有機化学の方法論をナノ材料に適用し、新しいサイエンスを創出することを目指し、化学、生物学、医学、物理学、材料科学、ナノサイエンスなどとの学際領域で研究を展開しています。 元来、有機化学は有機化合物を対象とする学問分野でした。しかしながら、当研究室では、ナノ粒子、中でも特に炭素を主体とするナノ粒子に対し、有機化学の方法論を適用することで、数々の新しい事象を見出してきました。 以下に、当研究室で現在行われている3つの研究題目を紹介します。
ナノ粒子の表面化学修飾と生物医療応用
本研究室が有する有機合成化学の知識と経験に基づき、ナノ材料の表面を化学修飾することで、主に生物医療応用に向けたナノ粒子の機能化を行っています(N. Komatsu, Acc. Chem. Res., 56(2), 106-116 (2023))。 具体的には、図2一段目左にあるナノダイヤモンドをはじめとする各種ナノ粒子などに対し、ポリグリセロールによる化学修飾を行ない、リン酸緩衝液などの生体環境下で安定に分散するナノ粒子を合成しました(L. Zhao, N. Komatsu, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 50, 1388 (2011); Adv. Funct. Mater., 22, 5107 (2012) 他)。 さらなる機能を付与するため、図2一段目右のように、ポリグリセロールに標的指向性を有するペプチドや抗がん作用を有するプラチナ製剤などを結合させ、ドラッグキャリヤとしての機能を細胞実験により明らかにしました(L. Zhao, N. Komatsu, et al., Adv. Funct. Mater., 24, 5348 (2014))。 また、ポリグリセロールで被覆したナノダイヤモンドに蛍光体(Cy7)を結合したナノ粒子による腫瘍の生体蛍光イメージングを試みたところ、このナノ粒子が肝臓や脾臓による捕捉をすり抜け(図2段目左)、選択的に腫瘍に集積し、腫瘍のみを可視化できることを見出しました(F. Yoshino, N. Komatsu, et al., Small, 15, 1901930 (2019))。 このステルス性は、ポリグリセロールがタンパク質の吸着を抑止する機能に起因することを明らかにしました(Y. Zou, N. Komatsu, et al., ACS Nano, 14, 7216 (2020))。このポリグリセロールの機能を利用し、図2段目右にあるように、ナノ粒子表面の官能基に対するタンパク質の吸着能とマクロファージによる捕捉との定量的な関係を明らかにしました(Y. Zou, N. Komatsu, et al., Adv. Funct. Mater., 32, 2111077 (2022); Mol. Pharmaceutics, 18, 2823 (2021); Carbon, 163, 253 (2020))。 さらに、含ホウ素ナノ粒子による中性子捕捉療法(BNCT)の研究を京都大学複合原子力科学研究所と共同で行い、マウスの腫瘍や腫瘍細胞の成長を抑制することを明らかにしました(図2三段目左、M. Nishikawa, N. Komatsu, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 94, 2302 (2021); N. Komatsu, L. Zhao et al., Adv. Mater., 35, 2301479 (2023))。また、BNCTに光温熱療法(PTT)を組み合わせることで、マウスの腫瘍が消滅することも明らかにしました(Y. Wang, G. Reina, N. Komatsu, et al., Small, 18, 2204044 (2022))。 一方、図2段目右のようにナノダイヤモンドをポリグリセロールで被覆した後、長鎖アルキル基を結合させることで、有機溶媒に安定して分散するナノダイヤモンドを作成することにも成功しています(W. Wang, N. Komatsu, et al., ChemNanoMat, 6(9), 1332-1336 (2020))。
図2 ナノダイヤモンドのポリグリセロールによる化学修飾と水分散化(1段目左)、ポリグリセロール修飾ナノダイヤモンドのドラッグキャリヤへの応用(1段目右)、ポリグリセロール修飾蛍光ナノダイヤモンドが血中のタンパク質の吸着を排し、肝臓や脾臓による捕捉をすり抜ける様子(2段目左)、有機溶媒に分散する表面修飾ナノダイヤモンド(2段目右)、中性子捕捉療法(BNCT)によるマウスの腫瘍成長の抑制(3段目左)、ナノ粒子表面官能基のタンパク質吸着特性とマクロファージによる捕捉(3段目右)、ポリグリセロールの第一級ヒドロキシ基の酸化(4段目左)、10Bを担持したナノダイヤモンドによるホウ素中性子捕捉療法(4段目右)
二次元材料のはく離によるナノシートの合成と生物医療応用
近年、グラフェンに代表される二次元ナノシートは新しいナノ材料として注目を集めています。我々の研究室では、以前より取り組んできた超分子化学の知識と経験に基づき、バルクの二次元材料のはく離によるナノシートの合成とその生物医療応用に取り組んでいます。 具体的には、図3左にある多環芳香族化合物(トリフェニレン)をはく離剤とする液相中での超音波照射によるはく離と下の図3右にある界面活性剤をはく離剤とする固相中でのボールミルによるはく離です(G. Liu, N. Komatsu, ChemPhysChem, 17, 1557 (2016); ChemNanoMat, 2, 500 (2016); A. Tayyebi, N. Komatsu, et al., Nanotechnology, 31, 075704 (2019))。 いずれのはく離においても、はく離剤は非常に重要な役割を果たしますが、はく離剤として光増感剤や抗がん剤を用いることができる、ということも明らかにしました。得られた複合体を細胞培養液中に加え、光照射を行ったところ、非常に希薄な分散液でも効率よくがん細胞を殺傷することが明らかとなりました(G. Liu, N. Komatsu, et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 7, 23402 (2015); 2D Materials, 6, 045035 (2019))。 現在、二次元ナノシートだけでなく、ミセルをドラッグキャリヤとするドラッグデリバリーシステムについても検討を行っています(K. Nagura, N. Komatsu, et al., Chem. Eur. J., 23, 15713 (2017); Pharmaceutics, 11, 42 (2019); Nanotechnology, 30, 224002 (2019))。
図3 超音波によるトリフェニレン存在下での二次元ナノシートの液相はく離(左)、ボールミルによるコール酸ナトリウム存在下での二次元ナノシートの固相はく離(右)
超分子化学に基づくナノチューブ、ナノシートの構造分離
本研究室が有する有機合成化学と超分子化学の知識と経験に基づき、ピンセット型あるいはノギス型などユニークな構造を有するホスト分子を合成し、それらを用いて、ナノチューブやナノシートととの錯形成を介して、特定の構造体の分離を行なっています。 この研究の起源は、図4上段左にある、ホモオキサカリックスアレーンによるフラーレンの分離にあります(N. Komatsu, Org. Biomol. Chem., 1, 204 (2003))。 すなわち、球状のフラーレンに対し、お椀型のホモオキサカリックスアレーンをホスト分子として用いたように、柱状のカーボンナノチューブに対し、ピンセット型のホスト分子を設計・合成し、その分離を行いました(図4上段右、下段左、G. Liu, N. Komatsu,et al., Org. Biomol. Chem., 10, 5830 (2012); F. Wang, N. Komatsu, et al., Nanoscale, 3, 4117 (2011); A. F. M. M. Rahman, N. Komatsu, et al., Chem. Sci., 2, 862 (2011))。 また、キラルはホスト分子を用いたところ、直径とともに右巻き、左巻き構造の識別に基づく分離により、光学活性カーボンナノチューブが得られました(X. Peng, N. Komatsu, et al., Nature Nanotechnology, 2, 361 (2007); J. Am. Chem. Soc., 129, 15947 (2007); J. Am. Chem. Soc., 132, 10876 (2010); Chem. Lett. (Highlight Review), 39, 1022 (2010))。 さらに、ノギス型のキラルなホスト分子を設計・合成し、カーボンナノチューブの分離を行ったところ、右巻き、左巻き構造と直径の識別とともに、金属・半導体の電気的物性をも識別することが明らかとなりました(図4下段右、G. Liu, N. Komatsu, et al., J. Am. Chem. Soc., 135, 4805 (2013); Chem. Eur. J., 19 (48), 16221-16230 (2013); Org. Chem. Front., 4, 911 (2017))。 2分子のノギス型ホスト分子の両末端をを金属イオンとの配位結合で架橋することにより四角形のホスト分子でカーボンナノチューブをインターロックし、これにより直径に基づく精緻な分離に成功しました(G. Cheng, N. Komatsu, et al., ACS Nano, 16, 12500 (2022); Beilstein J. Org. Chem., 20, 1298 (2024))。
図4 ホモオキサカリックスアレーンによるフラーレンの分離と分子ピンセットによるカーボンナノチューブの分離(上段左)、分子ピンセットによるカーボンナノチューブの分離(上段右、下段左)、分子ノギスによるカーボンナノチューブの分離(下段右)